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名門ワセダを影で支えるマネージャーの涙

箱根駅伝ノート 第3回

 

 箱根駅伝に出場できるのは10人。そのレギュラー争いだけでなく、チーム内では下位グループだった鈴木、河合、中山の3人にも〝見えないバトル〟があった。なかでも河合は鈴木と同じ時習館高校の出身。一緒に練習をしていて、気まずさがあったという。

 そして2年生の7月下旬。学年ミーティングで鈴木がマネージャーに選ばれた。

「僕は泣き虫なんですけど、その場では泣きませんでした。でも、ミーティングが終わって、ひとり暮らしの部屋に帰ってから泣きましたね。ひたすらひとりで泣きました。悔しくて。精神的にも参っていたので、最後の記録会を走った後に、『やっと解放される』という気持ちもあったんです」

鈴木は専任だったが、中山は選手兼任で、途中から専任のマネージャーになった。結局、3人のなかで河合だけが、選手として夢を追いかけている。その河合は11月19日の上尾ハーフで1時間4分53秒の自己ベストをマーク。12月10日の選手登録でエントリー16人のなかに選ばれた。最後のチャンスに向けて、現在〝ラストスパート中〟だ。

 主務の鈴木はいう。「他のマネージャーもそうだと思いますが、今でも走れるものなら走りたい。でもマネージャーになって、人間的に成長できたと思います。選手たちが苦しんでいるところも見ているので、選手が好タイムを出したときは素直にうれしいですし、同期が活躍すると本当に良かったなあと思いますね」と。そして今年のチームをこう評価している。

「昨年の4年生が持っていたような華やかさは正直ありません。でも、今年の早稲田は地味に強いと思いますよ。この夏で一気に変わりました。夏合宿は4年生が中心に引っ張り、過去の5年間と比べても、今年が一番できているくらい。やることはやったので、あと足らないのは結果だけです。箱根では地味に3~4位につけて、強みのある山(5区と6区)でトップを奪って、そのまま勝てたらいいですね。それが理想です」

 1月3日の大手町。泣き虫だという鈴木の目から〝うれし涙〟があふれるかもしれない。

(『箱根駅伝ノート』より構成)

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酒井 政人

さかい まさと

1977年生まれ、愛知県出身。「箱根」を目指して東京農業大学に進学。1年時に出雲駅伝5区、箱根駅伝10区に出場。2年時の故障で競技の夢をあきらめて、大学卒業後からスポーツライターに。陸上競技をメインに取材して、様々なメディアに執筆している。著書に『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』(角川新書)、『箱根駅伝監督 人とチームを育てる、勝利のマネジメント術』(カンゼン)、『東京五輪マラソンで日本がメダルをとるために必要なこと』(ポプラ新書)。


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